マルハナバチの技術情報

マルハナバチに迫る脅威
     〜温室の外は危険がいっぱい〜


 

マルハナバチが国内に導入されて10年が経ちました。2001年の日本国内での利用コロニー数は約60000群とされており、トマトにおける普及率は6割に達しています。
導入当初は農薬の影響や温度の管理により、コロニーの寿命が短かったり充分な働きをしなかったりと問題もありましたが、近年では生産者の方々も利用方法を理解されて上手に利用されるようになってきました。

 ところが、毎年うまく働いていたのに今年は全然ハチが出ないとか、寿命が極端に短かったというクレームを耳にすることがあります。
花粉が出ているかどうかのチェックはもちろんのこと、温室内の温度管理や散布農薬の影響に問題がない場合は天窓などからマルハナバチが外に出ていることが考えられます。
露地に咲いている花の花粉状態が良いとマルハナバチはそちらをメインの花としてとらえ、花粉を集めに温室内を脱出してしまいます。

露地にはマルハナバチを襲う危険がたくさんあります。
一つは鳥類で、モズ、セキレイ、ヒヨドリなどがマルハナバチを食べることが知られています。スズメもマルハナバチをつついて遊ぶそうです。
マルハナバチを利用しているある温室にセキレイが入り込み、マルハナバチを食べるのを目撃した園主がそのセキレイを捕まえて腹を裂いたところ、中から30頭ものマルハナバチが出てきた事例もあります。温室内に鳥類が入り込むとそれだけでマルハナバチは巣の外に出てこなくなる場合もあります。
二つめの危険は、露地で散布される農薬です。
温室内ではマルハナバチ保護のために有機リン剤や合成ピレスロイド剤などの農薬は使われませんが、受粉昆虫に関係のない露地作物ではこのような薬剤が利用されます。
たまたま温室外にいたマルハナバチにこういった薬剤がかかれば影響は大きく、ときには死滅することも充分に考えられます。また幼虫の脱皮を阻害するIGR剤が散布された花から花粉を集めた場合には、巣の中の幼虫が全滅することも考えられます。
三つめの危険はマルハナバチの天敵です。
鳥類も天敵といえますがその他にマルハナバチに卵を産み付けるハエの類などがいます。またスズメバチもマルハナバチの天敵として知られています。

いずれにしても温室外へマルハナバチがでることはデメリットばかりで、本来の目的である受粉作業がうまくいかなくなったり、巣の寿命が短くなったりします。大量増殖されたハチが逃げ出して、環境に悪影響を与えないようにすることも、私たちが安心して、いつまでもマルハナバチを利用する上で大切なことです。
マルハナバチを温室内で上手に長く働かせるためにも是非開口部へのネット展張をお勧めします。